【4】

夏の野外訓練

特殊部隊の『夏季野外訓練』の話題は 特殊部隊だけでなく防衛部から図書館内全体へと
あっと言う間に話しが広まっていた。

参加条件の「図書特殊部隊の関係者」が満たされればいいという事で 今まで話もしたことの無い
新しい友人が増えたという笑い話も 事務室での会話で聞かれるようになった。
そうは言っても 気心のしれない仲間と行く場所でもない。
海水浴のお誘い と言えども 一応は「野外訓練」でもあるのだ。

そもそもこの海水浴に 友達になってまで参加したいという輩が出てくるのは これが特殊部隊の
「野外訓練」が主であり『通達』という形を取っているので 参加者には費用が掛からないといった
いわば 特典 があったからだ。

タダで4泊5日の海水浴  

こんな美味しい話に乗らない手はない。 

郁も いつの間にか 知らない友人が増えていた。
廊下で親しそうに話しかけられたり お昼を一緒に食べましょうとか 実家からのお裾分けだと言って
頂き物をしたり・・ 
遠慮しても 無理やり押し付けられてしまうので 本当に迷惑するくらいだった。


「堂上教官!」
あまりの日常茶飯事に業をいやして 誰に言っていいのかわからず矛先をとりあえず堂上にむける。
「どうにかなりませんかねー もう困るんですけどっ!」
「何した?」
ちょうど昼から図書館内警備のバディが堂上だったのだ。
「最近 もらいものばっかりしちゃって・・ いらないって言っても 押し付けていくんですよ。断ると逆に
睨み返されたりとかするし・・ どうにかならないですか あれ」
堂上も 思い当たる事があるようで
「ああ」
と言って 難しい顔になる。
「今回の件で 問題も出てきている。隊長と副隊長と話し合って 別に通達を出す事にしたんだが・・」
どうも歯切れがよろしくない。

教官達も 困ってるんだね。

「あ・・もしかして 野外訓練が いつものように奥多摩って事もあるんですか?」
と聞いてみる。
「それもあるかもしれんが・・」
あ、あるんだ。
「笠原は 奥多摩だったら水着にならんでいいから そっちがいいのか?」
と問いかけられ 
「いらんこと 覚えてないでいいです!」
と口を尖らせて堂上を見ると 頭をクシャっと撫でられ
「まあ 気にするな。お前が気にするほど 誰もお前の水着など見ないから」
そう言った堂上は 何も無かったかのように とっとと歩き出す。

なに それー 
「エーッ!それってセクハラですっ!セクハラ!!」
顔が赤くなった郁は 頬を押さえながら 堂上のあとを追った。



翌日 補足 という事で改めて通達が出た。
行程と訓練の内容はそのままで 参加者が訓練同行者と言う名目になっており
「申し込み後 特殊部隊で考慮の上 認められたものとする」
と もっともらしい選考理由が書かれていた。

考慮の上 認められたもの!?
郁はそれを見て プゥッと噴出した。
分かったような分からないような なんだそれ・・

そもそも そんな事を書かなくても 一緒に行く友人って最初っから決まったようなもんなのに。
まあ 他の急に友人になろうとする輩へのけん制って事が ありありと分かる文面だった。

無意味な そして無理な 付け届け は その後パッタリと無くなった。

郁は ちょっと もったいなかったなー と呟くと堂上から無言で拳骨が落ちた。

↑top
←back
→next