「笠原さんの新しい水着 楽しみだね」

今日も いつものように寮の自室に小牧がやって来て一杯やっていた。
帰り際 小牧の言った その言葉が耳から離れない。
なんて事だ・・ 忘れようと別の事を考えてみたり 何かをしようとするのだが ちょっとした隙にふと
また その言葉が脳裏を過ぎる。

ダメだダメだ・・ 

その言葉から その先を想像してしまう自分が つくづく嫌になる。 
俺だって男だ。
そんな事を考えたってしょうがないだろ と自分に弁解する。
小牧の野郎! 寝れなくなったじゃねぇか。

ビールに手をかけて空になっている事に気付く。
冷蔵庫を開けてみるが 全部飲んでしまったようだ。
チッ 舌打ちをして 財布から小銭を取り出しズボンのポケットに入れると 共有スペースになっている
ロビーへと向う。

もう皆寝静まっている時間だ。
最小限の明かりしかついていない暗い廊下を進み ロビーに着くと 何も考えずにお金を入れボタンを押す。
ガランゴロン・・ シーンと静まり返ったロビーにその音だけが響く。
持って帰って部屋で飲もうかと思っていたが そこのその静けさに誘われるかのように 腰を下ろし
プルタブを開ける

はぁー 俺何やってるんだ・・
タメ息をつく。
半分程飲んだ頃 女子寮の方から誰かが来る気配がした。
ん まずいな・・ そう思い 一気に飲もうとした時

「堂上教官?ですか・・」
と 聞きなれた声がする。見上げると 笠原郁がそこに居る。
心臓の鼓動が一気に加速するのが分かる。なんで 今・・ 

「何だ 笠原。寝れないのか」
平静を装ってそう問うと コクンと頷いて 
「何かヘンな夢見ちゃって・・ 教官も寝れないんですか?」
と聞いてくる。
あ、余計な事を聞いてしまったな と思い渋い顔になる。

「いや・・何だか飲み足りなくてな。それだけだ」
気持ちが見透かされそうで 言い方もぶっきらぼうになる。
もっと違う言い方あるだろう と自分でも思うが いたし方ない。
この場に長居は無用だな と思った堂上は 残りのビールを一気に飲み煽る。




ヘンな夢見ちゃって・・ と言うのはウソだ。

昼間の事が 堂上のあの視線をどうしても思い出して 寝れないのだ。
・・水着は自信ないと言いながら 海は楽しみなんだな
そう言った堂上の視線は明らかに 郁の胸を見ていた気がする。
教官も きっと大きな胸がいいに違いない。 そう思うと この小さな膨らみが切なくなってくる。

先日の公休日に柴崎と水着を買いに出掛けた。
なるべく胸を強調しないようなシルエットの しかもTシャツを上から着ればいいと そう思った。
柴崎も 郁の脚のラインを強調するヤツを勧めてくれ これでヨシ!って思ったのに・・

寝れなくて柴崎に ちょっと頭冷やして来る そう言い残しロビーにやって来た。
なのに・・ まさか 堂上がそこに居るとは思いもしなかった。




なんとなく居ずらい雰囲気の中 郁が立ったままそこに居ると ビールを飲み干した堂上が立ち上がった。
「おまえも 早く寝ろ!」
缶をゴミ箱に入れた後 そう言いながら頭をクシャッと撫でる。
郁は このまま堂上が部屋に戻ってしまうのだと思ったら とっさに
「早く寝ろと言われても 寝れないから ここに来たんです!」
思わず突っかかってしまった。

歩きかけた堂上だったが 振り返って困ったように おまえはなぁ・・ と呟く。
少々の沈黙のあと 
「しばらく一緒に居てやるから 眠くなったら言え」
と さっきまで座っていた場所にまたドカッと腰を下ろした。
「えっ!あ、はいっ!」
ワケの分からない返事をして 郁も 隣に腰掛ける。

堂上は自分に 落ち着け落ち着け と言い聞かせ これくらいは許されるだろうと 郁の頭に手を乗せた。
隣に座った郁の頭に手を乗せて ゆっくりとゆっくりと撫でる。
「そんなに 怖い夢だったのか?」
その声に 首をすくめた郁が また可愛い。
郁は 声も出ないのか コクッと頷くだけだ。
そんなに怖い夢みたのか こいつは。
堂上は それが自分のせいとは思わず 夢のせいだと思ってしまっていた。


郁の頭を撫でながら 段々妙な気分になってくる。
今更 手をどけるのも何だかヘンだ。
かといって このまま撫で続けるのも どういうもんだろう。
一番困るのは 可愛いと思う気持ちがどんどん増殖していって 抑えられるのだろうかという事だ。

可愛い そして愛おしい・・

ダメだ・・頼ってくれる部下に・・
堂上は唇をグッと噛み
「どうだ 落ち着いたか」
出来うる限りの力強い声を出してみる。

郁は思いもよらない その低い声に ビクッとしてしまう。
このまま ずーっとこうして居たかったのに・・ そう思ったが 流石にそれは堂上にとってどうなんだろう?
と考えると ここらが引き際かな そう思った。
「はい。もう大丈夫です。ありがとうございました」
精一杯の笑顔で 答えた。

【6】

夏の野外訓練

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