「堂上!笠原! クマ殺しの二人だろう。野生のサルじゃないんだから 捕獲しろ!」
とは 無線越しの玄田だ。
「なっ・・」
堂上は眉間にシワを寄せてさらに難しい顔になる。
「えーっ!」
それってどういう理屈ですか!! 郁は 信じらんない と口を尖らせる。
小牧は二人の様子を見て クックッと笑いかけて そういう状況じゃないと笑いを堪える。
さあ どうしたもんだか・・
「サルって目を合わせちゃいけないんでしたよね」
いつの間にか 柴崎が郁達の所に来ている。
「え?そうなの?」
「目が合うと やられると思って攻撃してくるのよ」
そうなのか・・
「でもさ 飼われていた おサルさんなんだよね」
のそのそと 歩いているそのサルを見ていると 何だか可愛いなーとか思ってくるのは何で?
そうだ!と何かを思いついた郁が 近くにいた図書館員に 耳打ちをすると その図書館員は はい!
と言って 駆け出した。急いでねー と後ろから声を掛ける。
「何する気だ?」
堂上に問われて
「時間延ばしを・・ だって警察来るんですよね」
「で 何する気だ!」
ジロリと睨まれ 首をすくめる。
「だって・・ 可愛く見えませんか? 何だか 懐いてくれそうで・・ 警察来るまで遊んでみようかと・・」
と とんでもない事をいう部下に 堂上は唖然とする。
小牧も驚いたようで
「笠原さんの発想って 分からないけど すごいね」
と 感心している。
「笠原 おまえ サルと遊んだ事あるのか?」
「いいえ・・ でも山に行くと たまに見かけたりとか・・ そんな怖いと思った事無いし」
大丈夫です!と胸をはる部下に 益々怪訝な顔をして 堂上は
「おまえが やるなら 俺も手を貸す」
と進言する。
はい! っとニッコリ笑って堂上を見る郁に
少々気が重くなりながらも こいつには敵わないな・・ とタメ息を付いた。
そこへ さっきの図書館員が戻ってくる。
手には パンパンに膨れた袋。
中には リンゴやバナナなど 果物が沢山入っている。
その中のバナナを手に取ると 郁はサルに向って歩き出す。
なんて事はない そのサルはお腹が空いていて 郁の差し出した果物を喜んで食べ始めたのだった。
さっきまでの あの緊張感は何だったのか と言うほど場が和む。
郁は郁で 美味しい? とか言いながら サルに餌を与えている。
「やっぱり 山猿だったわね」
柴崎の一言で 小牧の上戸に火がつき 堂上が益々仏頂面になっていた。
程なくして 警察の動物処理班なるものが駆けつけ 飼育されていておとなしいサルはあっと言う間に捕獲された。
済んでしまえばなんて事の無い事件だったが 余りにも気が緩んでいると会議で問題になり 第二班からは
第一班よりも訓練を厳しくすると玄田隊長から爆弾が投下された。
「サル一匹で オタオタしおって」
その日の課業後の事務室で 郁は日報を書きながら タメ息を付く。
あーあ・・ 折角買った水着 やっぱ着れないのかナァ
海水浴楽しみだったのになー
あー 海水浴 海水浴 海水浴 久しぶりなのにぃ!
ブーブー
いつものようにダダ漏れな郁の独り言に 小牧の日報に目を通しながら談笑していた堂上が顔を強張らせる。
小牧はクックッと上戸が入り
「堂上も楽しみにしていたのにね 笠原さんの み・ず・ぎ!」
と 小声で囁く。
「バ、馬鹿!何言ってる!」
つい声が大きくなり 怒鳴ると 郁がビクッとして振り返った。
「馬鹿って!!それ あたしですか」
【8】
夏の野外訓練