進藤一正率いる第二班も無事訓練を終えて 戻ってきた。
そもそも第二班は家族連れが多く 華やいだ雰囲気ではなかったようだ。
普段出来ない家族サービスで 落ち着いた5日間だったらしい。

あまり見ることのない父親の厳しい訓練と その後の浜辺の休日と。
子供達には かなり有意義な夏の1日になったようだと 進藤一正からの報告だった。


玄田はその報告に まあまあだな! と言いながらも満足そうだ。
「次はもっと鍛えてやる。楽しみに待ってろ」

そうなのだ。
第三班は 玄田隊長が責任者だ。
出掛ける前の団結式なるものがあって そこでの発言である。



「何だか状況が違い過ぎてる気がするんですけどー」
寮の部屋で 独り言のように愚痴を言っていると
「あら いいじゃないの。笠原 最初は文句言ってたじゃない。これは訓練の筈なのにおかしい って」
「だってぇ・・」
それでも ちょっとは楽しみにしてたのに・・ あーあ 

楽しみにしている旅行の仕度だと気持ちもウキウキして楽しいのに はかどらないのは何でだろう。
先日柴崎と一緒に買いに行った水着を手にして 止まってしまった。

買う時にもかなりの躊躇はあったけど やっぱりこの水着には縁が無かったのかなぁ・・
持っていっても着る機会も無いかもだし・・
自分が着ている姿も 思い描いてもサマになるとは思えないし

手にしている水着に目を落とし やっぱり無かった事にしようと タンスに仕舞いこむ。
「はい!終了!」
と バッグのチャックを閉めた。

柴崎は お肌の手入れをしながら その一部始終をしっかりと見逃さなかった。 
なにやってるのかしらね この子ってば・・




第三班の出発日。
雲ひとつ無い晴天で 整然と並んでいる皆の顔も明るい。
郁は 水着は諦めたけど 訓練は頑張ろうと今か今かと出発を待っていた。

「ごめーん。手塚にちょっと話しがあるから」
乗り込む寸前に柴崎は郁にそう言うと 手塚の腕を引いて 最後尾に消えていった。

えっ!?なに??

突然の事に 昇降口で立ち止まると 後ろから 早くしろー と声が掛かる。
慌てて 前方の席に座る。
座ってから後ろを伺うと 郁に気付いた柴崎がニッコリと手を振っている。
何笑ってんだー! そう思いながらも 郁も一応笑って手を振り返す。
今一度座りなおし 事の状況を考える。なに?何が起きた? 着くまで私一人??なんで??

そこへ
「あれ?笠原さん 一人なの?柴崎さんは?」
と 小牧が声を掛けてきた。後ろには毬江が居て 郁を見るとペコッと頭をさげる。
「手塚と話しがあるとかで 後ろに行っちゃいました」
そう言うと 小牧は後ろの席に目をやって 何故か クックッと笑っている。
「じゃあ 俺達もこの辺に座ろうか」
と 通路を挟んだ反対側へ席を決めたようだ。
毬江を窓側へ 小牧が通路側だ。

皆が席へつくと 堂上と玄田が乗り込んで これで全員になる。

小牧が堂上に こっち と手招きをする。

柴崎めー裏切ったなー ぐれてやるー と すっかり出発前から意気消沈の郁は 小牧のそんな行動も
ボーっとして眺めていた。
堂上は 傍まで来て郁に気付き
「どうした 元気ないな」
と声を掛けるが それにも はあ・・ と気の無い返事を返す。

「なんだ笠原ひとりか?柴崎はどうした?」
違和感を感じたらしく そう聞いてくるので 小牧に言ったと同じく答える。
すると 何を思ったのか 堂上が荷物を上に上げると郁の隣に腰を下ろした。
きょ、教官!! ひゃー これってどういう展開!?
落ちていたテンションが 違った意味で急上昇だ。


柴崎はどうした と聞くと元気の無い返事が返って来た。
後ろを見ると 柴崎がニッコリと手を振っている。
特に喧嘩をしたとか そういう事ではなさそうだ。
隣を見れば小牧が 隣の席を指差している。
まだ空いている席はあったが 躊躇することなく笠原の隣に座った。

様子で驚いているのが分かったが そんな事は構やしない。
元気の無い部下をほってはおけない と 自分の中で理屈をつける。
着くまでの間くらい このくらいはいいだろう・・ 誰も ヘンには思わないだろうしな。

「俺が隣だと 嫌か?」
とりあえず聞いてみると
「いえ!嫌じゃありません」
すかさず返事が返ってきた。
なんだか 笠原の顔が赤い気がする。つられて自分も赤くなる。
焦った気持ちを隠すように 
「じゃあ そんなうっとおしい顔してるな」
と言って 笠原の頭をクシャッと撫でる。

視線を感じて横を見ると 小牧が笑いを堪えているの分かった。
後でまた 何かからかわれると思うと はぁーっとタメ息が出て 今度は笠原が怪訝な顔になった。
「なんでもない」
そう言って 俺はまた 笠原の頭をクシャっと撫でた。

【9】

夏の野外訓練

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