ハートのプレートに想いを込めて

 【後篇】

図書館はまだ閉館前だ。
利用者が居るので、大っぴらに床を這うように探す事など出来ない。

「ハートのプレート」は平べったく、片手の掌に簡単に収まってしまうほどの小ささだ。
どこか隅に紛れ込んでしまっていたら、気がつく筈もない。

郁はその瞬間を思い出しながら、自分の向きをその時になぞらせて動いてみた。

 こうなって、それから・・ どうだっけ? あれ?

余りにもかなりの衝撃だったので、ハッキリと分からない。覚えてない。
きっと手に持ってた物は、こっちらへんに飛んで行くんだろうと想像して、その辺りを探してみる。
でも、見当たらない。
徐々に範囲を広くしてみるが、やっぱり見つからない。

仕事中、手塚に「ツリーの傍ばっかりうろついてると監視してると勘違いされる」と言われた事を
思い出す。
これじゃあ、今はもっと変じゃないだろうか。
もう、情けなくなってきてしょうがない。

でも、誰かに見つけられる事だけは避けなければならない。
そして、なんであんな事書いちゃったんだろう とガックリと肩を落とした。

初めはハートのプレートを前に、なかなか書けずにペンが止まっていた。
それが、何を書こうかと想像していくうちに、徐々に「乙女モード世界」に入り込んでいった。
想いがエスカレートしていき、そうだと思うと どんどんそれしか考えられなくなっていく。

 そうだよね。付ける時と外す時に、誰にも見られないうちに自分ですればいいんだ。

思ったら止まらなかった。
どうしても、どうしても、そう願ってやまない事だから・・。

 
「まったく・・。なんて恰好してるんだか」

四つん這いになっている郁の後ろから声が掛かってビクッとする。
考えてみれば、誰が見ても何やってるんだろうといった姿勢である。
声の主は顔を見なくても分かる。柴崎だ。
郁はスクッと立ち上がると、
「はは・・。いや、その・・今日も床が綺麗に掃除されてるなと・・ははは・・」
しどろもどろだ。

「探してるんでしょ。ハートのプレート」
ズバッと言われて言葉に詰まる。な、なんでそれを・・
「もう、あんたの事はなんでもバレバレよ」
「バレバレって・・」
「なんて顔してんのよ。一緒に探してあげるわよ。あの時でしょ、落としたのって」

そうだ、そう言えばあの時直ぐに柴崎が駆け寄って来てくれた。
って事は・・ よくよく考えてみて、ハッと気付く。
 もしや、ずっと見られてた?――

「ほら。笠原、探すよ。誰かに拾われたら困るんでしょ」
うん、うん。頷きながら、涙が出てくる。柴崎、いい奴だー
「ありがと」そう言って抱きつくと「感謝は見つかってからでいいわよ」と言う笑顔が天使に見えて
くる。

「あんたの過保護な上司からのご依頼でもあるしね」
しれっとそう言う柴崎に「どういうこと?」と頭が真っ白になる。

       *
       
小牧から「柴崎さんに連絡いれて」と言われた手塚が、直ぐに連絡を入れる。「じゃあ」と切ろうと
したところを堂上が取り上げた。
「俺だ」
「堂上教官?」
電話の相手が急に代わってビックリしたが、
「あいつ、また一人で意地張っている。何がどうなってるのかは知らんが、手を貸してやってくれ」
そう言うことね と、柴崎は一人納得する。
「了解〜」
語尾にハートマークが付くような声色で応えて柴崎は電話を切った。

       *

堂上教官が・・!
 またいらない心配掛けちゃってる――
私の個人的な事なのに・・。
ハートのプレートが消えてしまったのは、何だか今の二人の関係を物語っているのかもしれないと
いう嫌な考えが頭を過る。
 この気持ちは届かないのかもしれない――

でも、その堂上が、一緒に探してやってくれと柴崎に頼んでくれた。
嫌な考えを、涙と一緒に振り払う。

       * 

探すと言っても、雑然と物が散乱している場所では無い。
綺麗に片付いている床だ。
ツリーの傍に置いてある物は、少し離れた場所にイスが置かれてあるくらいだ。

「無いわねぇ。誰かがもう拾っちゃったかな」
柴崎が呟くのを聞いて、郁は、そうかもしれないと思ってもどうにか否定してきた心が揺らぐ。

 やっぱり、拾われちゃったのかな・・ 

「ねえ、笠原。これだけ探しても見つからないんだからさ、同じのをまた書いたらどお?」
柴崎の提案に郁は即答する。
「書くのはいいの!でも、無くなったのを誰かに見られたら困る!だから探さなきゃなんだよー」
「あんたさー、見られて困るような事書いた?」
「・・・」
真っ赤になって俯く郁に、柴崎はプハーっと噴き出した。
「やだぁー、なにそれー。ホントに?」
「笑うな!」
「ごめん、ごめん」

しかし、どう見てもゴミ一つ落ちていなそうな床に、二人で途方にくれてしまう。
それでも、柴崎はとても「諦めな」とは言えなくなっていた。
どうするかなぁ・・
子供とぶつかって、前のめりにもんどりうったから下ばっかり見てたけど、手に持っていた物が前
だけに飛ぶとは限らない。
柴崎はもしかして「上?」と、今まで下しか見ていなかった視点を上に変えてみる。

ハートのプレートで飾り付けられたツリーは大人の身丈くらいの大きさだが、その直ぐ脇に立派に
立っているのが入口正面の大きなツリーだ。
金色の大きな玉と赤い飾りが施しただけのシンプルな飾りしかない。
他の飾りが混じったらきっと目立つ。

その緑の枝に小さなキラリとピンク色に光る小さなハートを見つけた。
やっぱりね!
『ハートのプレート』は好みで選べ、「ピンク」「ブルー」「イエロー」がメタリックに輝く。
笠原の事だから、きっと乙女モードに走って、プレートも乙女チックにピンクなんだろうと思ったら
その通りだ。

「笠原!あったわよ!」
「ええーーーっ!どこ、どこ、どこ?」
「あそこー」
柴崎は、指で示して「脚立要るね」と笑うと、郁もプレートを目で確認して「良かったぁ・・」とその場
にヘタリと座り込んだ。
そして見上げながら礼を言う。
「柴崎、ありがと」
「いいわよ。外ランチ一回デザート付で手を打つわ」
ははは・・こんな時まで。でも、一人じゃ見つけられなかったと思う。
それも、誰かに見られる前に探しださなきゃだったんだから、感謝しなきゃね と抱きついた。



「おはようございまーーす!」

翌日、昨日の事をいろいろ聞かれるのも困るので、いつも以上に郁は元気よく出勤しする。
「あ、おはよう。今日も元気いっぱいだね」
小牧がニッコリと笑顔で応える。
「「おはようございます」だ。元気いいのはいいことだが、「ます」は伸ばすな!」
そして堂上はそんな郁に朝から怒鳴り声だ。

「堂上教官、朝からそんな小さな事で怒ってたら、頭ハゲますよー」
「お前にハゲの心配してもらわなくていい。それにハゲたら、お前のせいだしな」
「ええーっ!何で私?人のせいにしちゃダメです!」
「あのな。お前がどれだけ心配掛けていると思って・・」
喧嘩腰になっていた堂上は言い掛けて、口をつぐんだ。
それを小牧がすくい取って
「ほらほら二人とも、そろそろ仕事の時間だよ」
と、〆た。


郁はチラッと堂上を見て、やっぱり心配掛けてるんだ と思った。
昨日の事も、なんとなく謝ったほうがいいかな と思う。聞き返されたら何と答えていいか困るが。
でも、柴崎に探すのを手伝ってやれと言ってくれたお礼くらいは言った方がいいのか・・

そこへ手塚が
「今日もまたツリーの前でウロウロしてくれるなよ」
と言う。
きっと、その後の事は知らないのだろう。
「大丈夫だよ。もう解決したから!」
そう言い返して、堂上の方に目をやると、視線が合ってしまった。

 えっ?なんで?
意味も無く赤くなる顔に、自ら慌てて
「手塚!ほら、行くよ!」
と、今日もバディの手塚に声を掛けると事務室を飛び出した。

こんなんで、気持は伝わるのかと、郁はほとほと自分に嫌気がしていた。
『ハートのプレート』に書いた想いは、叶うのかどうか。

昨日、柴崎と一緒に見つけた大事なプレート。
しっかり握りしめてから、ツリーに飾りつけた。
本人にも他の人にも決して見られたら困るから、見えない場所を探して飾った。
柴崎に
「うっかり者のあんたが、片付ける時にその場所を覚えているとは思えないわ」
と言われたのが、多少引っ掛かったけれど。
そして、プレートに書かれた言葉は・・
「シンプルだけど、あんたらしいわ。でもこれじゃ、誰かに見られたら困るわね」



『堂上教官とずっと一緒にいられますように

 
                                              fin.

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