悶々と考えながらも、結局なんら解決策を見出す事もなく、気がつけば眠りに落ちていた。
夢の中の郁は、いつのまにか自分の彼女で、可愛い顔でニッコリと微笑んでいた。
そして堂上はこの時を待ってたとばかり、胸が高鳴る。
夢はそれこそ自分勝手で、恋人同士の二人に何の迷いもない。
郁は堂上に体を預け「大好きです」と呟いた。
「俺もだ」そう言って抱きしめてキスを・・
次の瞬間目が覚めて、目の前に居たのは現実の郁だ。
まだ夢の中なのか錯覚をしているのか、理解できずにしばしその顔を見つめる。
視線が絡んで、真っ赤になった郁に、ああ・・これは夢じゃない と我に返った。
我に返ったのはいいが、サーっと血の気が引いて行くのが自分でも分かった。
やばいぞ。何も言い訳を考えていない。
郁を納得させる言い訳が、とっさに浮かぶわけもない。
焦る気持ちが余計な一言となり、堂上自身の首を絞める形になっていく。
「指一本触れてないぞ」
って、何安っぽい恋愛ドラマみたいなこと言ってんだ・・。
次の瞬間、更に真っ赤になった郁が
「分かってます。教官にしたら、私はただの部下でしかないですもんね。具合の悪くなった部下を眠
れる場所に運んでくれただけですよね?」
と、俯きながらそう応える。
違う!そうじゃないんだ。
ただの部下・・と言う言葉にも引っ掛かるモノがあって、胸がチクリとする・・。
何を言わせてるんだ、俺は・・。
しかし、この際だから郁のその言葉に便乗させてもらう事にする。
「俺もかなり酔っていたからな。寮まで無事にたどり着けるか分からなかった。ここに居るのは仕方
ない事態だった」
分かったような分からないような、そんな言い回しになり自分の言葉に苦る。
本当に、何やってんだ俺は。
それでも郁には通じたようで
「私がきっと教官を困らせてしまたんですよね。ここに泊まるとか言って駄々をこねたんですよね?」
すみませんっ!とペコリと頭を下げた。
駄々をこねたわけでは無いが、勝手に入り込んだのは事実なので、あながちウソではない。
言い訳を考えれずにいた堂上は、その言葉に自然と頷いてしまっていた。
頷いてしまった自分に、堂上はまた動揺する。
相手は部下で、しかも自分は5つも年上のいい大人で。
恋愛経験もそうあるとは思えない女性の言葉に便乗してしまうとは、なんて男として情けないだろう。
いつから俺はこんな、情けない奴になってしまったのか・・。
今にも泣き出しそうな郁の顔を見ながらそんな思いにかられ、自然と苦虫を噛み潰したような渋い顔
になっていた。眉間には深い皺を寄せて。
そして、郁がそれを見逃すはずがなかった。
そして、違った解釈をする。
やっぱり私、何かしでかしたんだ――
教官が困っている。自分のせいで困っている教官なんて見たくなかった。
それは、郁の事を迷惑だと思っている証拠だと、どんどん悪い事を考え始める。
もう、この場から早く消えて無くなりたい。
負の考えを抱き始めると、悪い事しか考えつかなくなる郁だ。
こんな大胆な事をするような女性を、堂上が好きになんかなる訳がない。
酒の勢いとは言え、それこそこんな事、女性としてありえない。
もう酒は御免だと何度も思いながらも、何度もこんな迷惑ばっかり掛けている自分が情けなくてとこと
ん嫌になる。
しばらく二人とも何も言えず、重たい空気が漂っていた。
時間だけが空しく過ぎて行く。
こうやっていても埒があかない。
まずは着替えて外へ出なければ。
堂上はおもむろに立ち上がると、いつものような命令口調で言ってしまう。
「とにかくここから出る事だな。着替えるぞ。お前も早く着替えろ」
焦りから、郁の気持など想いやる事が出来ず、帰りの事を気に病んでいた。
着替えながら、ふと郁に目をやった堂上は、その姿に愕然とする。
未だベッドの上の郁は小刻みに震えながら、目にはいっぱいの涙を溜めていた。
愛おしい女性のそんな姿は正直切ない。
そして、そうさせたのは自分だ。
守りたいと思っているのに、これじゃ自分の存在が郁を苦しめているようにしか思えない。
「か・・笠原!?」
声を掛けると
「教官先に帰っててください。・・ごめんなさい・・」
郁の今にも消え入りそうな声に、堂上の心臓はギュッと締め付けられる。
こんな時どうすればいい?
こいつよりずいぶん年上で、しかも俺はこいつの上司だ。
もっと気の利いた台詞が言えないのか・・。
しかも誰よりも大事にしたい愛しい女性だ。
こんなにも俺は情けなかったか、と拳を握り締めた。
目覚めに見たあの夢が、なおさら堂上を追い込んでいく。
夢でしか気持が伝えられないなんてな・・現実はこれだ――
泣かせてしまって、いったい何やってんだか。
堂上は握った拳を見つめると「よし!」と、自分に気合を入れて郁の前に立つ。
状況の説明は後で何とでもいいつくろえばいい。
今は、大事な女性をこのままほっとけない。
後はなるようになれ、だ。
「笠原、泣くな。お前をおいて行ったりはしない」
そう言うと、堂上は郁を抱きしめた。
今は郁を落ち着かせる為に。
他の事は何も考えないことにしようと、抱きしめる腕に力を込めた。
つづく・・・
ピンチ!!